糖尿病

Medical

糖尿病

糖尿病は、血液中のブドウ糖の濃度(血糖値)が慢性的に高くなってしまう病気です。
血糖値は、食事や活動などにより一定の範囲内で変動しますが、基準値を超えた状態が長く続くと、血管がダメージを受け、体のあちこちに深刻な合併症を引き起こします。

高齢化が進み、食生活も大きく変化している日本人にとって、糖尿病はとても身近な病気です。2016年に厚生労働省が行った調査*1によると、国内の糖尿病患者数は約1,000万人で、予備軍まで含めると推定2,000万人に上ることから、日本人の約6人に1人が糖尿病の疑いがあるということになります。
*1厚生労働省 平成28年「国民健康・栄養調査」

糖尿病による血管の損傷は、自覚症状のない予備軍の段階からすでに始まっています。症状の悪化を防ぐためには、早期に適切な血糖コントロールを行うことが大切です。

糖尿病とは

インスリンの働きと糖尿病発症のメカニズム

糖質は、私たちの身体が活動するためのエネルギー源になる大切な栄養素です。
食事で取り込んだ糖は、体内でブドウ糖に分解された後にグリコーゲンとして肝臓に貯蔵されますが、エネルギーが必要になると再びブドウ糖に戻され、血液を通して全身の細胞に運ばれます。

血液中のブドウ糖(血糖)は、膵臓(すいぞう)から分泌される「インスリン」というホルモンの働きにより、スムーズに細胞内に取り込まれ、エネルギー源として使用できる状態になります。また、このインスリン作用は血糖値の急上昇を防ぎ、一定にコントロールしてくれる役割も果たしています。

しかし、何らかの原因で、インスリンが分泌できなくなったり、働きが悪くなったりすると、うまく細胞内に取り込めなくなったブドウ糖が血液中に溢れ、高血糖(血糖値が高い状態)になります。
高血糖が長く続くと、余った糖が血管を傷付け、詰まりやすくなって血流を妨げることから、各組織や臓器には十分な栄養が届かなくなり、全身にさまざまな障害(糖尿病性合併症)が起こります。

糖尿病危険度セルフチェック

高血糖を起こす要因はさまざまですが、発症には食事や運動などの生活習慣が関係している場合も少なくありません。まずは、ご自身の生活における糖尿病リスクをチェックしてみましょう。

  • 40歳以上である
  • 家族に糖尿病患者がいる
  • 年々、体重が増加している
  • 食事の時間が不規則
  • 濃い味付けや脂っこい料理を好む
  • 間食が多い、甘いお菓子やジュースが好き
  • 野菜をあまり食べない
  • 飲酒の量や回数が多い
  • 運動する習慣がない
  • 日頃から血圧が高い
  • ストレスを感じやすい
    • 上記は、どれも高血糖を招きやすい条件もしくは生活習慣の特徴です。

      このような生活を続けていると、いずれは糖尿病を発症してしまう可能性がありますので、当てはまる項目が多い方は、早めに生活習慣を見直し、できるだけリスクを減らしておくことが大切です。

糖尿病の種類と原因

糖尿病には、大きく分けて4つの種類があり、高血糖を招く原因もそれぞれ異なります。

1型糖尿病

1型糖尿病は、膵臓でインスリンを作る細胞(膵β細胞)が壊れてしまうため、インスリンが分泌できなくなります。免疫システムの異常で自分の細胞を攻撃してしまう「自己免疫性」が患者さんの9割を占めており、残りの1割が原因不明の「特発性」です。
患者さんは、やせ型の人や若い世代の人に多いですが、幼児や大人でも発症します。
急激なものから緩やかなものまで、病気の進行スピードは患者さんによりますが、インスリンの分泌がほぼ無い状態になった時は、定期的に注射でインスリンを補充する治療が必要になります。

2型糖尿病

糖尿病全体の9割を占め、いわゆる「生活習慣病」として知られている代表的な糖尿病です。
遺伝や体質で発症する場合もありますが、食事の乱れや肥満、運動不足、ストレスなど、さまざまな要因が重なり、インスリンの働きが低下することで発症します。
年齢が上がるにつれてインスリンの分泌量自体も減ることから、中高年以降に患者数が増加しますが、近年は若い人の発症も増えています。
必要に応じて薬物治療を行う場合もありますが、インスリン低下の原因となっている生活習慣の改善が不可欠です。

その他の特定の機序、疾患による糖尿病

遺伝子の異常、内分泌系の病気、膵臓や肝臓の病気、ウイルス感染、治療薬の影響などが原因で血糖値が上がる糖尿病です。高血糖の改善には、原因となる病気の治療や治療薬の変更などが必要です。

妊娠糖尿病

妊娠時は、お腹の赤ちゃんに十分な栄養を与えるため、血糖値が高くなります。また、胎盤からもインスリンの働きを抑えるホルモンが分泌されるので、これまで正常だった方でも高血糖に陥りやすく、これを「妊娠糖尿病」と言います。
肥満や高齢で妊娠された方、家族に糖尿病患者のいる方などに多く、軽度の高血糖でも胎児への影響(奇形、巨大児、未熟児、子宮内胎児死亡など)は大きいため、しっかりとした血糖コントロールが必要です。
出産後は、正常値に戻るケースが多いですが、数年後に再び糖尿病を発症する確率が高いため、引き続き注意が必要です。

糖尿病のおもな症状は?

インスリンを分泌する膵臓は「沈黙の臓器」と言われ、機能が低下した後も働き続けるため、初期はほとんど自覚症状がありませんが、病気のサインに少しでも早く気付くことができれば、進行を防ぐことが可能です。
「これくらい大丈夫」と油断せず、以下のような症状がある時は早めに医師の診察を受けましょう。

のどが異常に渇く

高血糖になると、濃くなった血液を薄めようとして身体が多くの水分を欲するようになります。
体内の水分だけでは足りず、外からも取り込もうとするため、のどが渇きます。血糖値が安定するまで強いのどの渇きが続くので、異常なほど多量の水分を摂ってしまうのが特徴です。

尿の回数や量が増える、尿が泡立つ

血液中の余分な糖を排出しようとして多量の水分を摂るため、尿の回数や量が増えます。糖分が高い尿は、粘り気が強くなるので、泡がすぐ消えずに残るのも特徴です。

疲れやすい、イライラする

インスリンの働きが低下すると、ブドウ糖がうまくエネルギーに換えられずに栄養不足になり、疲れやすくなります。同時に、脳もエネルギー不足になるため、根気がなくなり、イライラ感などが起こります。

足のケガが治りにくい、手足のタコやイボが増える

末端の血液循環が悪くなるため、心臓から遠い足などにケガをすると、再生に必要な成分が十分に届かず治りが遅くなります。また、血流の悪さから手足にタコやイボなどができやすくなります。

視力が落ちる、目がかすむ

血行不良により、視力の低下や目のかすみが起こるようになります。糖尿病による視力の低下は、眼鏡やコンタクトレンズで矯正しにくいのが特徴です。

急に体重が減る

糖尿病が進行すると、ブドウ糖のエネルギー変換が難しくなり、これまで通り食べていても体重が減少します。ダイエットをしていないのに急に体重が減った時や、肥満だった人が徐々に痩せてきた場合などは要注意です。

糖尿病による合併症とは?

「糖尿病の怖さは合併症にある」と言われるように、糖尿病による合併症は、体のあちこちにさまざまな症状を引き起こすのが特徴で、「急性」と「慢性」の2種類があります。

急性合併症

インスリンの急激な低下が原因で起こる急性合併症は、突然、異常な高血糖をきたすもので、重症の場合、「意識障害」や「昏睡」に陥ることもあります。
急性合併症の一つである「糖尿病ケトアシドーシス」は、1型糖尿病の発症時や、インスリン治療を中断した時、または2型糖尿病の方が、一気に甘いジュースを大量に飲んだ時などに起こりやすいのが特徴です。
また、高齢者や2型糖尿病の方に多い「高浸透圧高血糖症候群」は、肺炎などの感染症、脱水、手術のストレス、糖尿病以外の病気(心筋梗塞など)が原因で起こります。

急性合併症は、発症すると命に関わることもある危険なものですが、日頃から生活習慣に気を付け、適正な治療を行っていれば、めったに発症することはありません。

慢性合併症

長期に及ぶ高血糖が原因で起きる合併症で、じわじわと進行するのが特徴です。
慢性合併症には、細い血管に起こる「細小血管症」と、大きな血管に起こる「大血管症」の2種類があり、人工透析が必要になる場合や、失明や壊疽(えそ:組織の細胞が死んでしまう状態)を招く場合があるため、早期に発見して進行を抑えることが重要です。

糖尿病のおもな検査と診断基準

糖尿病は、自覚症状がない初期のうちに、検査で発見することができる病気です。
糖尿病の診断には、問診による詳しい聞き取りのほか、以下のような血液検査が基本となります。

糖尿病診断のための検査

①血糖値検査

採血により、「1dlの血液中に含まれるブドウ糖の量(血糖値)」を調べる検査です。
血糖値は食事による影響を大きく受けることを踏まえて、測定タイミングが異なる3つの検査方法があります。

  • 随時血糖検査:時間を決めずに血糖値を測定
  • 空腹時血糖値:10時間以上、食べていない空腹時の血糖値を測定
  • 75g経口ブドウ糖負荷試験(75gOGTT):10時間以上食べていない空腹時の血糖値を測定後、ブドウ糖液(ブドウ糖75gを溶かしたもの)を飲み、30分後、1時間後、2時間後の血糖値を測定(※空腹時血糖値が高めだった場合に行うことが多い)

②HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)

採血により、血液中の「糖化ヘモグロビン」の値を測定する検査です。
糖化ヘモグロビンとは、赤血球の中のヘモグロビン(血色素)と血液中のブドウ糖が結合したもので、この値から過去1~2か月の血糖値の平均が分かります。

糖尿病の診断基準

日本糖尿病学会では、糖尿病の診断にあたり、検査結果を以下のように3つに分類しています。

  • 正常型(異常なし):空腹時血糖値が110mg/dl未満およびブドウ糖負荷試験血糖値が140mg/dl未満
  • 境界型(糖尿病予備軍):空腹時血糖値が110mg/dl以上~126mg/dl未満およびブドウ糖負荷試験血糖値が140mg/dl以上~200mg/dl未満
  • 糖尿病型:空腹時血糖値が126mg/dl以上またはブドウ糖負荷試験血糖値が200mg/dl以上またはHbA1cが6.5%以上(※2回繰り返し検査して同じ結果なら糖尿病と確定)

実際の診断は、この分類のほかに、肥満度や家族歴、他の病気の有無なども考慮して総合的に判定するため、境界型でも状態によっては治療が必要になるケースもあります。

糖尿病の治療

糖尿病治療の目的は、血糖値をコントロールして、合併症の予防や進行を抑えることです。それぞれの患者さんの状態に合わせ、「食事療法」「運動療法」「薬物療法」を組み合わせて行います。

食事療法

体内に取り込む糖質や摂取エネルギー量のコントロールを行います。
特に、2型糖尿病の方は食生活の影響が大きいことから、早食いを避け、栄養バランスを考えて3食規則正しく食べることや、摂取する総エネルギーの量をきちんと守ることが重要です。
1型糖尿病の方の場合、2型糖尿病のような食事制限は必要ありませんが、炭水化物の摂取量に合わせてインスリンの投与量を調整すると血糖値が安定しやすくなることから、炭水化物の摂り方に注意を払う必要があります。
実際に必要な摂取エネルギーの量や摂り方は、患者さんの症状や体重、活動レベルなどで異なるため、医師や管理栄養士など専門家の指導に従いましょう。

運動療法

適度な運動は、血液中の余分なブドウ糖を消費して血糖値を下げるほか、肥満の解消、インスリンの効果を高め、血液循環を良くして血管の老化を防ぐなど、多くのメリットがあります。
運動療法は、「有酸素運動」と、筋肉に抵抗をかける「レジスタンス運動」の両方をバランスよく取り入れるのがポイントです。運動の強度は、年齢や体力レベル、体調などにより異なりますので医師と相談して無理のないように行いましょう。

運動量の目安

  • 有酸素運動:ウォーキング、ジョギング、サイクリング、水泳などを週150分程度
  • レジスタンス運動:腕立て伏せ、スクワット、ダンベル体操などを週に2~3回

薬物療法

1型糖尿病の方の多くは、インスリンを体内で作り出すことができなくなっているため、定期的に注射でインスリンを補充する「インスリン療法」が必須です。
2型糖尿病の方は、食事療法や運動療法などの生活改善だけでは効果が十分でない場合に薬物療法を併用します。
血糖値を下げる薬は大きく分けて4種類あります。インスリンの分泌が足りないのか、インスリンはあっても作用が弱いのかなど、患者さんの病態を考え、以下の中から薬剤を選択します。

  1. インスリンを外から補充する薬:インスリン製剤(注射)
  2. インスリンを出しやすくする薬:スルホニル尿素(SU)薬、速効型インスリン分泌促進薬(グリニド薬)、DPP-4阻害薬、GLP-1受容体作動薬(注射)
  3. インスリンを効きやすくする薬:ビグアナイド薬、チアゾリジン薬
  4. 糖の吸収や排せつを調整する薬:α—グルコシダーゼ阻害薬、SGLT2阻害薬

よくある質問

1)症状がなくても治療は必要ですか?

糖尿病の場合、自覚症状がない状態であっても、合併症はいつ起こるか分かりません。
様子を見ていても自然に治ることはなく、治療を先延ばしにすると合併症のリスクはさらに上がってしまいますので、早期治療が大切です。
なお、糖尿病の方であっても、適正な治療で血糖コントロールができれば、健康な方と同様の生活を送ることは十分可能です。

2)食事療法で気を付けることはありますか?

糖尿病だからといって、特に食べてはいけないものはありません。
無理な食事制限は長続きしないうえに、食べたい物を我慢することが、逆に血糖値を上げる原因になってしまう場合もあります。
「間食は、洋菓子よりも和菓子を選ぶ」「揚げ物は夜ではなく、昼に食べる」という具合に食品の選び方や食べる頻度、時間などを工夫すれば好きな物を食べていただくことも可能です。
また、ついついお菓子を食べすぎてしまうという方は、袋から直接ではなく、かわいいお気に入りの容器に入れて少量を食べるようにすれば、お腹だけでなく、心も満足できるのでおすすめです。

なお、食事療法を行うにあたり、何をどれだけ食べたら良いのか分からない時は、日本糖尿病学会が作成した「糖尿病食事療法のための食品交換表」を利用すると便利です。
さまざまな食品の80キロカロリー分を「1単位」として栄養素別に紹介しているので、この中から必要なカロリーの単位分を、バランスを考えて摂取すると良いでしょう。
食事療法は血糖値が改善しても一生続ける必要がありますので、よく食べる食品の量や含まれる栄養素などは覚えておくと良いでしょう。

3)血液検査には2つの種類がありますが、違いはなんですか?

糖尿病の血液検査には、血糖値検査とHbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)の二つがあります。
診断の基本となる空腹時血糖値検査は、「今現在の血糖値」を見るものであることから、食事を摂らない状態で行う必要があります。それに対し、HbA1cは、「ここ2か月程度の血糖値の平均」を見るものであり、食事の有無で数値が変わることはありません。

初めに行う糖尿病の確定診断には、空腹時血糖値の確認が必要なため、食事を摂らずにお越しいただきますが、診断がついて治療を開始した後は、HbA1cを行うことから、検査前であっても食事や薬、インスリン注射を控える必要はありません。むしろ、食事や薬を摂っていない状態で来院されると、行き帰りが危険になることもあります。当院は、無理をせず、「いつも通りのありのままの姿」で治療を進めていくスタイルですので、普段通りの状態でお越しください。

4)インスリン注射は一度始めると止めることは出来ませんか?

1型糖尿病の方は、ほとんどインスリンが分泌されないため、インスリン注射を続ける必要があります。最近では、2型糖尿病の方も膵臓を休ませる目的でインスリン注射を行う場合がありますが、治療により血糖値のコントロールができるようになれば、内服薬への変更も可能です。

まとめ

生活習慣の乱れが発症に大きく関与している2型糖尿病では、第一に原因となる食生活や運動の改善が重要です。パンフレットを使用したり実際に運動をやってみたりして、分かりやすく続けられる指導を心掛けています。

早急な治療を要する重症な場合を除き、1~2か月ほど生活改善を行ったうえで、薬物療法など次のステップの治療に進むかどうかを判断します。厳しすぎると長続きしません。
食事、運動、くすりの服用の状況を正直に話せる関係を作っていきたいと思います。忘れても決して怒ったりはしません。患者様のありのままで治療をするスタイルを取っております。