胃腸炎は、何らかの原因で胃腸に炎症が起こり、腹痛や嘔吐、下痢などを起こす病気です。
胃腸炎にはさまざまな原因があり、健康な人でも発症する身近な病気の一つですが、なかでも発症数が多い「感染性胃腸炎」は、ウイルスや細菌が原因で発症する急性胃腸炎で、中には強い感染力がある胃腸炎もあります。
健康な方の場合、発症しても軽症で済む場合が多いですが、免疫力の低下している方や小さなお子さん、ご高齢の方などは脱水を起こしやすく、重症化するケースもあるため、早期に適切な治療を行う必要があります。
胃腸炎
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胃腸炎
胃腸炎とは
胃腸炎とは、胃と腸(小腸、大腸)の粘膜に炎症が起きた病気の総称です。
食べ過ぎ、飲み過ぎといった理由で起こる単純なものもあれば、感染、薬剤や毒性のある化学薬品、アレルギー、ストレスによるものまで、幅広い原因で起こることがあります。
また、その症状も、突発的に発症する一過性のものから、なんとなく胃腸の違和感が続く慢性化したものまでさまざまなケースがあります。
胃腸炎のなかでも特に発症数が多いのは、「感染性胃腸炎」です。
感染性胃腸炎とは、原因となる病原体に感染して発症する急性胃腸炎であり、そのほとんどはウイルスと細菌によるものです。(※その他、寄生虫が原因で発症する場合もあり。)
感染性胃腸炎は、風邪と同じように、感染した人もしくは病原体の付着した物などを介して感染するほか、病原体に汚染された食品を摂取することで「食中毒」として発症するケースもあります。
感染すると、数日の潜伏期間(病原体によって異なる)の後、突然の嘔吐や下痢、腹痛、吐き気などの不快な胃腸症状が現れるのが特徴で、時には発熱を伴うこともあります。
突発的に激しい嘔吐や下痢症状が出ることが多いですが、長引くケースは少なく、通常は1週間程度で自然に回復することがほとんどです。
しかし、小さなお子さんや高齢者などは、もともと免疫力が低いことから下痢や嘔吐が長引きやすくなる傾向があり、脱水症状や電解質喪失症状*1に陥ってしまうと、命にかかわるようなケースもあるため、十分な注意が必要です。
ウイルス性胃腸炎の特徴
ウイルス性胃腸炎は、おもに「ノロウイルス」「ロタウイルス」「アデノウイルス」「サポウイルス」などが原因で起こる胃腸炎で、感染性胃腸炎全体の9割をウイルス性が占めています。
小さなお子さんの場合には、「嘔吐下痢症(おうとげりしょう)」という呼び方をされるほか、分かりやすく「お腹の風邪」などと言われることもあります。
ウイルス性胃腸炎は、年間を通して発症することがありますが、特に冬~春(11月~3月)にかけて発症者が増えるのが特徴です。感染すると数日(ウイルスの種類によって若干異なる)の潜伏期間の後、突然の嘔吐から始まることが多く、続いて下痢や腹痛などの症状が現れます。
ウイルス性胃腸炎の特徴は強い吐き気が起こることで、短時間のうちに何度も嘔吐を繰り返す場合が多いですが、なかには1日1~2回程度の嘔吐を数日間繰り返すようなケースもあり、その症状は患者さんによって個人差があります。
ウイルス性胃腸炎は、ウイルスに汚染された飲食物(おもにカキなどの二枚貝)を摂取し、「食中毒」として発症することもありますが、感染者の便や吐瀉物(としゃぶつ:吐いたもの)を触った手や物を介して感染するケースや、乾燥した吐瀉物から飛散したウイルスを吸い込んで感染するケースも多く見られます。
ウイルスの多くは、低温で乾燥した環境の下で長く生存することから、冬のシーズンには食事に関係なく、流行が広がるのも大きな特徴です。
細菌性胃腸炎の特徴
細菌性胃腸炎は、おもに、「サルモネラ菌」「カンピロバクター」「病原性大腸菌」「腸炎ビブリオ」「黄色ブドウ球菌」などの細菌が感染して起こる胃腸炎です。年間を通して発症することがありますが、細菌の増殖が活発になる夏の暑い時期(6~8月)に発症が増えるのが特徴です。
特にカンピロバクターやサルモネラ菌などは、牛や鶏、豚などの腸の中に多くいるため、加熱が不十分な状態でこれらの肉を食べてしまうと、食中毒として発症することがあります。また、調理の際に、細菌の付いた手や調理器具などを介して感染するケースもあります。
細菌は、温度や湿度などの一定条件が揃うと増殖する性質があることから、夏の暑い時期に集団発生が起きるケースも珍しくありません。
食中毒以外には爬虫類のペットからの感染も多く見られるため、ペットを触った後はしっかり手を洗うようにしましょう。
細菌性胃腸炎に感染すると、数日の潜伏期間(細菌の種類によって異なる)の後、腹痛や下痢などの症状が現れるのが特徴で、発熱や血便を伴うこともあります。嘔吐は、ウイルス性と比較すると軽い場合が多いですが、その症状は患者さんによって個人差があります。
感染性胃腸炎の検査・診断
前述のとおり、胃腸炎にはたくさんの原因があり、その内容によって治療法も大きく異なるため、問診では患者さんからの詳しい聞き取りがとても重要です。
診察時には、胃腸症状の確認を行うほか、ここ数日に飲食した物の内容、周囲の流行状況、最近の海外渡航歴、服用薬の有無などの詳しい聞き取りを行い、その情報を元に、必要に応じて以下のような検査を行います。
≪胃腸炎のおもな検査≫
- ウイルス性胃腸炎が疑われる場合→抗原検査(迅速診断キットあり)
- 細菌性胃腸炎が疑われる場合→血液検査(炎症反応の有無や白血球の数などを調べる)
- 細菌性や寄生虫による胃腸炎が疑われる場合→糞便検査(便の寄生虫や細菌の有無を調べる)
- その他の可能性(アニサキスなどの寄生虫)が疑われ、胃内部の状態を確認する必要がある場合→内視鏡検査(胃カメラ)
上記の検査の中には判定に数日かかるものもあります。そのため、患者さんの症状や周囲の流行状況などから感染性胃腸炎と診断ができる場合には、特別な検査を行うことなく、治療を開始するケースもあります。
感染性胃腸炎の治療
感染性胃腸炎の改善には、胃腸の働きを回復させることが重要です。
まずは消化の良い食事を心がけ、炎症の起きている胃腸を休ませることが治療の基本となりますが、下痢や嘔吐などの不快な症状がある時は、症状を和らげるための対症療法を行います。
≪感染性胃腸炎のおもな治療薬≫
- 胃の痛みや不快感が強い場合→胃酸分泌抑制剤、胃粘膜保護剤
- 吐き気が強い場合→制吐薬(吐き気を抑える)
- 腹痛が強い場合→鎮痙薬(ちんけいやく:痛みやけいれんを抑える)
- 下痢が強い場合→整腸剤、止痢薬(しりやく:下痢を抑える※重度の下痢の場合のみ)
- 細菌性が疑われる場合→抗菌薬(基本は対症療法、特別な基礎疾患がある・乳幼児・高齢者などが高い場合のみ抗菌薬を使用することがある)
※現時点で、抗菌薬治療に対しての推奨は統一されていません。使用に関しては、主治医の判断によります。
感染性胃腸炎の下痢は、無理に止めると、病原体の排出も妨げてしまうことから、重度の場合を除いて「止痢薬(下痢止め)」は使用しません。
また、胃腸炎は基本的に、脱水症状を予防しながら上記の対症療法で自然な回復を待ちます。
感染性胃腸炎の予防
感染性胃腸炎の予防にはウイルスや細菌を寄せ付けないことが大切です。
病原体を体内に取り込まないようにするため、トイレの後や食事の前、調理の前には必ず石鹸を使用して丁寧に手を洗い、30秒以上かけて十分に洗い流しましょう。(爪の中や指の間なども忘れずにしっかり洗いましょう。)
※下記のサイト(外部)では正しい手洗いの方法を紹介しています。
厚生労働省 「できていますか?衛生的な手洗い」
また、ほとんどのウイルスや細菌は加熱すると死滅します。食中毒による感染を防ぐためには、生肉や魚、野菜などの食材は十分に加熱してから食べるようにしましょう。特に、肉類は中心までしっかりと火を通すことがポイントです。(75度で1分以上の加熱が目安)
さらに、食材だけでなく、まな板や包丁、布巾といった調理器具から感染するケースもあるため、毎回、調理器具はしっかりと洗い、定期的に熱湯消毒などをして清潔に保ちましょう。(家庭用除菌剤の使用も効果的です。)
よくある質問
1)胃腸炎で病院に行く目安は?
胃腸炎の症状には個人差があります。軽症の場合、特別な治療を行わず、水分をしっかり摂って胃腸を休ませるだけで自然に改善する場合もあります。
しかし、下痢や腹痛、嘔吐が長く続くような場合、自然に治る可能性は低いため、受診して適切な治療を受けることをおすすめします。
口から水分摂取ができなくなってしまった場合には、脱水症状の予防のため、点滴などの処置が必要になります。特に、小さなお子さんやご高齢の方、基礎体力の低い方は、嘔吐や下痢が続くことで体力を消耗してしまうため、早めの受診をおすすめします。
2)胃腸炎の時には何を食べたら良いですか?
嘔吐をした時は、しばらく飲食を控え、1~2時間程度は胃を休めましょう。
吐き気が強い場合、食事を摂ること自体が難しい場合もありますが、脱水症状を防ぐためにも、水分補給だけはしっかりと行いましょう。口から水分補給ができるようであれば、経口補水液や麦茶、りんごジュースなどを常温で少量ずつ飲みましょう。一気にたくさんではなく、こまめに何度も飲むことがポイントです。(コーヒー、紅茶、牛乳、炭酸飲料などは胃腸に負担をかけてしまうため、おすすめしません)
激しい腹痛や血便などがある時は、しばらく絶食が必要な場合もありますが、食事を摂れるようになったら、おかゆや柔らかく煮たうどん、野菜スープなどの消化の良いものを少しずつ食べるようにしましょう。(刺激の強いもの、糖分や脂質の多いもの、食物繊維の多い野菜や海藻、アルコールは控えましょう。)
3)なぜ胃腸炎に感染する人と感染しない人がいるの?
全く同じ環境に居ても、胃腸炎に感染する人と感染しない人がいます。
また、感染しても症状が軽い人、もしくは全く症状がない「不顕性(ふけんせい)」の人もいれば、症状が長引き、脱水を起こしてしまう方もいらっしゃいます。
これは、一人一人、感染症の抵抗力となる免疫力の高さが違うためで、免疫力の弱い高齢の方や小さなお子さんなどは、感染すると症状が重くなる傾向があります。
また、日頃は健康でも、過労やストレスなどで体力が落ちている時には症状が重くなる場合もあります。日頃から規則正しい生活(食事や睡眠など)で、免疫力を高めておくことも大切です。
4)なぜ胃腸炎に感染する人と感染しない人がいるの?
強い感染力がある感染性胃腸炎は、保育所や学校で一人でも患者さんが出ると、集団感染を起こす可能性があることから、下痢や嘔吐などの症状が出ている間は、登園や登校を控える必要があります。
細菌性胃腸炎の一つである「出血性大腸菌感染症」は、学校保健法で「第三種感染症」に分類されていますので、医師が感染の恐れがないと認めるまでは出席停止となります。
特に5 歳未満のお子さんの場合、便を採取して培養する検査で、2 回以上連続して陰性になることが登校再開の目安となります。(※ただし、感染していても無症状の場合は、出席停止の必要はなし。)
カンピロバクターやサルモネラ菌による細菌性胃腸炎や、ノロウイルスやロタウイルスなどのウイルス性胃腸炎の場合、出席停止の明確な決まりはありませんが、下痢や嘔吐が治まり、通常の食事が摂れるようになって体力が十分回復してから登校を再開するようにしましょう。登校再開後も、引き続き、手洗いを忘れずにしっかり行うことが大切です。
5)家族が感染性胃腸炎になりました。どのようなことに気を付ければよいでしょうか?
ご家族の一人が感染性胃腸炎になると、周りのご家族にまで感染を広げてしまう(二次感染)可能性が高まるため、注意が必要です。
感染した方の吐瀉物や便は周囲に飛び散らないように注意をして処理し、片付けた後は、必ず石鹸を使って丁寧に手洗いをしましょう。処理する際は、使い捨ての手袋やマスク、エプロンなどを使用し、手を拭く時もペーパータオルなどを使用すると安心です。
下痢症状が治まった後も、便の中にはウイルスが大量に残っています。1~2週間程度は便と一緒にウイルスが排出されるので、トイレの後の手洗いは念入りに行いましょう。
併せて、「家族間でタオルの共用をしない」「患者さんは最後に入浴する」など、感染を広げないための対策を怠らないようにしましょう。
また、強い感染力のあるノロウイルスやロタウイルスなどは、石鹸やアルコール消毒では生き残ってしまう可能性があります。床などにウイルスが付着している可能性がある場合は、塩素系の漂白剤を薄めたもので消毒を行いましょう。
洗濯物や食器も別にしておきましょう。
【消毒液の作り方】
500mlのペットボトルの水に、市販の塩素系漂白剤をペットボトルキャップ1杯(5cc)入れ、よく混ぜる。(※誤飲に注意。作り置きはしないこと。)
まとめ
ウイルス性胃腸炎、細菌性胃腸炎などの種類により治療法は異なりますので、気になることや不明点がある場合は、かかりつけの先生に相談しましょう。